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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2076号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人末広薫の負担とする。

理由

被告人魯の弁護人鶴和夫の上告趣意第一点について。

被告人甲に対する窃盗事件の第一回公判期日において同被告人から窃盗の事実を自認する陳述を聴取しその証拠書類の取調をした裁判所が、同被告人より右窃盗の賍物を故買したことを公訴事実とする被告人乙に対する賍物故買事件(別件)を、前記甲に対する事件の第二回公判期日冒頭において、これに併合審理することとし、乙に対し起訴状の朗読に始まる審理をすることは、乙に対する起訴状朗読前予め判決裁判所の裁判官がその公訴事実と密接の関係ある事実の証拠資料の一部を了知していることになるけれども、刑訴二五六条六項に違反するものということはできないこと当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭和二六年(あ)三八七七号同二八年九月一一日第二小法廷判決、昭和三〇年(あ)一七〇八号同年一〇月一四日第二小法廷判決、集九巻一一号二二一三頁)。

記録によると、被告人末広に対する起訴状には同被告人が金属類を窃取した等の公訴事実の記載があり、被告人魯及び渡辺政美に対する起訴状には被告人魯が被告人末広よりその窃取にかかる金属類を賍物たるの情を知って故買した旨の公訴事実の記載がある。よって、第一審裁判所は、先ず被告人末広の窃盗等事件のみについて第一回公判を開き、同被告人の「事実は公訴事実の通り相違ない」旨の冒頭陳述、検察官提出の多数書類(この中には引用の小林好男こと被告人魯の買受始末書、同被告人の供述調書が含まれる)の取調及び同被告人の情状に関する供述を終り、同第二回公判においては、冒頭で右被告人末広の窃盗等事件に右被告人魯の賍物故買及び渡辺の賍物運搬事件外一名の事件を併合審理する旨の決定を言い渡した上、右被告人魯、渡辺外一名の事件に対する冒頭陳述後、検察官の請求により前記第一回公判で被告人末広の窃盗関係について提出された書類の再取調並に新書類の取調を行い、なお、以上被告人四名の供述を聴取し、更に第三回公判において書類の取調等の後、弁論を終って結審し、被告人魯及び渡辺に対し、次で被告人末広に対し各別に有罪判決を宣告した事跡が認められる。しかし、被告人魯及び渡辺に対する右起訴状には、起訴の時からこの両被告人に対する公判期日における冒頭手続終了までの間にこの両被告人に対する公訴事実の証拠資料としては何らの書類その他の物が添付、提出せられず又その内容が起訴状に引用されていないこと記録上明らかである。

論旨は、第一審裁判所が、先ず被告人末広のみに対する窃盗事件の公判期日において被告人魯の賍物故買の事実にも関係ある証拠書類の取調をしこれを受理した後、被告人魯に対する賍物故買事件をこれに併合し、その起訴状の朗読以降の審理手続をしたことは刑訴二五六条六項に違反すると主張するけれども、右手続が同条項に違反しないことは冒頭説示の理由により明らかである。所論憲法三一条違反の主張は刑訴二五六条六項違反を前提とするものであって採用できない。さればこの点に関し原判決が判示の理由により第一審判決を是認したのは相当であって、論旨は理由がない。

同第二点は単なる量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人末広の弁護人宮川順輔の上告趣意について。

所論は原判決が被告人に対し刑の執行猶予を言い渡さなかったことをもって刑法二五条に違反するというけれども、同条は裁判所の裁量により「執行を猶予することを得る」要件を規定したものであって裁判所に対し執行を猶予しなければならない法律上の拘束を課したものではないから、原判決が執行を猶予しなかったからといって同条に違反するということはできない。所論は採用できない。その余の論旨は単なる量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三)

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